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2023.07.07

印章:刻まれてきた歴史と文化・・その①

 山梨日日新聞連載「印章 刻まれてきた歴史と文化 県立博物館企画展から」

1.開催の経緯、金印「漢委奴国王」 3 17 日) 約3年続いた新型コロナ対策も5月には一区切りを迎えようとしている。「ステイホー ム」が求められたことも今では懐かしいが、仕事を自宅等で行う「テレワーク」が普及す る中で、書類に押印するためだけに出社しなければならない人の存在が取り上げられ、印 章・ハンコに批判的な言説も見受けられるようになった。 さらに、政府による行政改革の一環としての「押印見直し」政策が、「脱ハンコ」に拍車 をかける。狙いとしては、これまで必要以上に押印を求めていた行政手続きを見直すこと で、業務の効率化や申請者の負担減を図ろうというものだった。しかし巷間では「ハンコ 廃止」といった言葉が一人歩きしてしまい、印章業界は厳しい状況を強いられることにな った。 ただ、人類と印章・ハンコの関わりの歴史を紐解けば、「ハンコ廃止」の一言で片づけら れるほど簡単な問題ではないことがわかる。また山梨県は印章の生産量全国一を誇り、印 章産業は県を代表する地場産業の一つで、その歴史は150年以上に及ぶ。 いま大事なことは、安易なハンコ要否の議論ではなく、その歴史や文化を振り返ってみ ておくことではないかと考え、企画したのが、「印章刻まれてきた歴史と文化」である。 本展では、印章が果たしてきた役割とその変遷などについて、特に歴史的、文化・芸術的 な視点から紐解くとともに、山梨の伝統的産業である印章産業のあゆみを紹介することを 目指したものだ。 最初に注目していただきたいのが、福岡市博物館が所蔵する国宝「金印 漢委奴国王」 である。1784(天明4)年に志賀島(現在の福岡市東区)で発見された金印は、西暦 57年に後漢の光武帝が倭の奴国の使者に「印綬」を与えたとする「後漢書」の記載に符 合するものと考えられ、日本に現存する最も古い印章である。日本人と印章の関わりの起 点を金印に求めれば、約2千年の歴史を有するといえよう。今回、日本列島に暮らす人々 が初めて印章に出合ったことを象徴するものとして、3月21日(火・祝)までの期間限 定の特別公開となる。山梨初公開の貴重な国宝を、ぜひじっくりとご覧いただき、印章の 歴史・文化を思う契機としていただきたい。 展示では、古代律令制による文書への押印、戦国大名による印判状の発給、書画に用い られた印章と「印聖」高芙蓉による篆刻の変革、江戸~明治にかけ庶民に浸透した印章、 黎明期の山梨の印章産業などについて紹介している。一つ一つは小さな印章が語りかけて くる、日本人と印章の、長く多様な「刻まれてきた歴史と文化」に耳を傾けてい
ただきた い。 

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